Borussia Dortmund Magazine

ドルトムントを中心にドイツサッカーなどを紹介します

*

トーマス・トゥヘル監督の解任に寄せて

   

彼と初めて出会ったときのことをよく覚えている。思わず見上げるほどの長身。年不相応の細く引き締まった身体。サインや写真に対して丁寧に応じながら、ゆっくりと私の側にやってきた。

「Welcome to Japan」と声をかける。すると彼は優しく微笑み、快く私のユニフォームに黒マジックで軽快にサインを記していった。当時彼に対しては「気難しい人」という印象が強くあったが、ファンサービス中、彼はそのような行動や言動を見せることはなかった。

トーマス・トゥヘル。戦術家、フットボールオタク、そして狂人。もしかしたら、彼の見ている地平は誰にも理解されないのかもしれない。様々な憶測が飛び交っていたが、ドルトムントは5月30日に指揮官と話し合いを行い、彼を解任すると決定。数日前、クラブは5年ぶりのタイトル獲得に酔いしれたが、その歓喜と興奮はもはや過去のものになった。

公開書簡

トゥヘル監督を解任後、ヴァッケ社長は公式サイトにて「公開書簡」という形で状況を説明、ファンに対して理解を求めた。要約すると、指揮官とコーチングスタッフとミヒャエル・ツォルクSDやヴァッケ社長との間に、意見の不一致という軋轢があったこと。そしてクラブ側は「信頼に基づく望ましい協力関係の基礎を現在のコーチング体制が今後提供してくれると、我々はもはや信じることはできなかった」と説明。それゆえ、率直な話し合いと議論の末に解任に至ったようだ。

またクラブ側は、ヴァッケ社長とトゥヘル監督の両者の関係性から導き出された結論ではないと強く強調し、ユルゲン・クロップのような特別な人間関係を基準にしては考えていないと表明している。

フットボール界ではお馴染みの出来事かもしれない。フロント陣や中心選手からの支持を失えば、いかに有能な指揮官といえどクラブに居場所は無くなる。ただそれだけのことだが、「クラブは家族」であったり、「真実の愛」を提唱するドルトムントのイメージからは完全にかけ離れたものだ。我々の気分を害する、誰一人として勝者のいない無意味な戦いの果ての終焉であった。

「美しい2年間に感謝」

トゥヘル監督は自身の解任を、開設したばかりのツイッターアカウントで報告。クラブを去ることについては「残念」と記したが、「エキサイティングで波乱に富んだ、美しい2年間に感謝しています」。とファンに対してシンプルに感謝の意を伝え、「ファン、チーム、スタッフ、我々を支えてくれた全ての人々にありがとう。BVBの幸運を祈る」と締めくくった。

リプライには多くの感謝のメッセージが並び、同時に解任に対する励ましのメッセージが多くみられた。タイトルを獲得した後、短いながらも感情のこもった別れのメッセージ。多くの言葉を美辞麗句のように並べるヴァッケ社長とは対照的であった。

トゥヘル監督解任によせて

確かにトーマス・トゥヘルのチームマネージメントは褒められたものではない。多くの選手との不協和音、ころころと変わる戦術。選手を「駒」のように扱うマネージメント(もっとも、そういう風にバイアスがかかっているかも知れない)

選手にとって、そしてファンにとっては面白い監督ではなかったが、それでもフットボールに対しては呆れるほどストイックで、チームの勝利の為に最後まで思案を巡らせ続けた男である。自らの意思に反してヘンリク・ムヒタリアン、マッツ・フンメルス、イルカイ・ギュンドアンの最も重要な3選手を同時に売却されたにも関わらず、若手中心のチームを再構築。ポカール優勝、CLベスト8、チャンピオンズストレートインを達成した。

ユルゲン・クロップがクラッシュさせたドルトムントを立て直し、クラブに5シーズンぶりのタイトルをもたらしてくれたことを感謝したい。何よりも、クロップ監督の後任という最も難しいタスクに対して、果敢に挑んでくれたことに最大級の敬意を表している。優秀な指揮官であったが、ドルトムントのカルチャーには適合しなかっただけである。彼の能力が否定されるわけでもなく、その功績が色褪せることはない。

トーマス・トゥヘル監督の今後の成功を心から願っている。

 - 16/17シーズン, ブンデスリーガ, ボルシア・ドルトムント , ,

Powered by amaprop.net

Comment

  1. ラロ より:

    素晴らしい。私も全く同感です。

    この文章を英訳あるいは独訳してトゥヘルに届けたい。いや、是非届けてください。彼を勇気づけてあげたい。

    このような感性を持った方がいることも、私を勇気づけてくれました。本当にありがとうございます。私もBVBファンですが、トゥヘル解任の報を聞いてBVBファンでいることはできるか不安でしたが、この文章を読んで分かりました。私はBVBファンというよりもクロップファンであり、トゥヘルファンだったんだなと。

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

  関連記事

ドルトムント、2017年がスタート+移籍の噂など

ドルトムント、2017年がスタート 公式から。約2週間のオフを終え選手たちは3日 …

「プリシッチとパスラックだけでは終わらない」ドルトムントユースの指揮官、ハネス・ヴォルフが語る育成と野望

Goal.comのドイツ版ウェブサイトのインタビューを意訳して紹介します。ドルト …

いよいよ開幕!ドルトムントは難敵グラッドバッハに挑む。試合前プレビュー

いよいよブンデスリーガが開幕。初戦の相手はグラッドバッハとのボルシアダービー。非 …

ピシュチェク「ポーランドの熱意は素晴らしい」

・ドルトムント、今季のユニフォーム販売数は23万着 Bild紙から。今季ユニフォ …

香川真司とアンドレ・シュールレが最高のシーズンスタートを演出。ドルトムント-トリーア戦試合後コメントから

ドイツ4部のアイントラハト・トリーアとの1回戦を迎えたドルトムント。予告通りゴー …

ドルトムント、ガラタサライを撃破しCLグループステージ突破!試合後コメントから

ガラタサライをホームに迎えたドルトムント。ガラタサライは前回の試合よりも改善した …