Borussia Dortmund Magazine

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「暴力」と「恐怖」に立ち向かったドルトムント、その代償

   


チームバスを狙った卑劣極まりないテロ攻撃からわずか23時間後、ドルトムントの戦士たちはブラック&イエローのユニフォームに袖を通すことになった。

オフサイドだったにも関わらず、不運にもドルトムントは先制点を許すと、続けてスヴェン・ベンダーのオウンゴールで前半だけでアウェイゴールを2点献上。簡単なミス、エネルギー不足、集中力の低下。チャンピオンズリーグ準々決勝のレベルには遠く、同時に事件が及ぼした影響を感じざるを得なかった。

ヌリ・シャヒン、クリスティアン・プリシッチが後半頭から投入されると、彼らがチームに情熱と冷静さを吹き込んだ。香川真司のアシストからウスマヌ・デンベレが簡単にゴールネットを揺らしたものの、ルカシュ・ピシュチェクのミスパスからゴールを奪われ3失点目。試合は死んだように思えた。それでも最後は香川が華麗なステップで2人を交わし、値千金のゴールでチームの希望を繋いでいる。

本来ならば前半のチームのパフォーマンスの悪さや個々のミス。後半のエネルギッシュなパフォーマンスについて書くべきだが、爆撃を受けてからたった23時間しか経過していない選手に要求できることは何一つない。

「僕らは動物じゃなくて人間」

レヴィアスポーツによれば試合終了後、選手たちはここ24時間分のプレッシャーから解放され、ドレッシングルームで泣いていたという。

試合後にヌリ・シャヒンは瞳に涙を浮かべつつ、淡々と自身の心境を語った。後半から投入されたシャヒンだが、プレーするまで、フットボールについては考えることができなかったという。

「誰も昨日のような事件の犠牲者になってほしくない。自宅に帰り、玄関先で妻と息子を見た瞬間に自分がどれだけ幸運なのかを思い知ったよ。サッカーができることも同じだし、自分たちにできるのはプレーすることしかない。でも、僕らがただの人間だということも忘れてはいけない。あんな事件の直後にプレーしなければならないなんて、正直言っていい気分ではなかった」-ヌリ・シャヒン

「試合が始まったころは、あの事件が僕らに重くのしかかっていた」と明かしたのはユリアン・ヴァイグル。後半になってようやく気持ちを切り替えることに成功したと語り、「今夜はプレーする以外に選択肢がなかった。もちろん、本当に難しかったけどね。僕を含め、チームの大半がほとんど眠っていないと思う」と事件の影響を隠すことはしなかった。

マティアス・ギンターも率直に「生きて家に帰れてうれしい」と明かし、「普段と同じようにやろうと思ったが、誰もフットボールについて考えることはできなかった。試合開始時、これは普通の試合じゃないと感じていたよ」と述べた。

「恐怖心は、事件が明らかになってもさらに湧いてくることがある」と神妙な表情で答えたのは香川真司。「チームのみんなは普通の精神状態ではなかったと思う。二度と味わいたくない瞬間でしたし、こういうターゲットが選手になってきていることが悲しいと、経験して感じました」と答えた。

キャプテンのマルセル・シュメルツァーは「今日はプレーすると決心したが、別な日にしてほしいと強く願っていた。僕らが人間であることを忘れられている。昨日起きたことは普通のことじゃないし、そのように扱われてはいけないんだ」と試合を強行したことについて疑問を呈した。

精彩を欠いたソクラティスは、試合開催を決定したUEFAについて怒りを表明している。

「まず、僕が生きていることを嬉しく思っている。人生で最も困難な一日だったし、誰もこんな経験はしてほしくない。事件後、試合のことを考えることはできなかった」

「UEFAは、我々が動物じゃないことを理解しなければならない。僕らには家族がいて、家には子供がいる選手もいる。動物じゃないんだ。全員の選手が生きているし、スタッフ全員が生きているんだ。僕らに起こったことが、他の誰にも起こらないことを願っている」

「僕らは社長や会長と話し合うつもりだが、解決策はない。今の気分はさっきも言ったように、動物として扱われているように感じている。僕らにとってこの事件がどれだけ大きなものだったか」-ソクラティス・パパスタソプーロス

指揮官の怒り

試合後の記者会見でトーマス・トゥヘル監督はUEFAの対応について「我々は意思決定には関与していない。いい感じではないね。無力感があったし、日付が決まっているならば、我々は仕事をしなければならない。我々のバスにビールの缶が投げつけられたように感じていたよ」と怒りを露わにし、「最高レベルで準決勝を争いたかったが、無力であり、良くない感じだ」と述べた。

あまりにも不条理な状況を嘆いた指揮官だが「セカンドレグは大きなチャレンジになる」と述べ、「自分たちの力を信じ続け、あらゆる力を尽くしたい」と勝利への意思を示した。最低でも2-0での勝利が必要だが「とにかくこの苦境を乗り切るために最善を尽くし、来週に向けて気持ちを奮い立たせたい。ここで敗れ去るつもりはないし、夢をあきらめるつもりもない」と言い切った。

日程問題

多くの選手、そしてトゥヘル監督が翌日開催に否定的な意見を述べたが、UEFAとドルトムントは即座に決定を下さなければならない状況だったとレヴィアスポーツは報道。事件後すぐにUEFA側とドルトムント側はスタジアムで意見交換を行い、最初の提案はそのまま試合を行うというものだった。しかしこれは選手がプレー不可能であるということで却下されている。

続いてUEFA側は翌日の16時キックオフでどうかと提案。しかしドルトムントはこの意見を跳ね除けた。困惑が広がり、意思決定が必要になりプレッシャーが高まったと報道されており、スケジュールを確認。ドルトムントにはこの後DFBポカール、バイエルン戦も控えており、延期も困難な状況に陥っていたようだ。結局翌日の18時45分に試合を行うことで決着がついた。他に選択肢はなかったのだ。

翌朝選手たちはヴァッケ社長からスケジュール決定についての背景を聞き、同時にこの事件がチームを狙ったものであると明かされたという。選手たちはプレーするという意思を表明したが、「プレーするタイミングは今じゃなかった」とレヴィアスポーツ紙は批判している。

スタジアムは満身創痍の選手をサポートしようと素晴らしい雰囲気を生み出し、同時にドルトムントサポーターとモナコサポーターは結束を披露した。「みんな、やれるだけのことはやった」とヴァイグルが語ったように、選手や指揮官、全スタッフが最善を尽くした上での敗戦だ。あの絶望的な恐怖からわずか23時間後にプレーした選手を称えたいし、誇りに思う。

けれどもこれは決して美談ではない。チームに対するテロ攻撃のわずか23時間後に試合を行うというのは、本当に正しいことなのだろうか。UEFA側は強引にでもドルトムント側に日程の猶予を与えることはできなかったのだろうか。単にスケジュールの問題という理由で片付けられるべきではないし、正しく議論されるべきだ。このような緊急時だからこそ、何よりも選手の意思が優先されなければならない。

それでもドルトムントとモナコはフットボールが暴力に決して屈しない姿勢を示した。そして、過去最大の危機に直面する中でファンやサポーターは再び一つになった。

 - 16/17シーズン, チャンピオンズリーグ, ボルシア・ドルトムント , , , , ,

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